『ハムレット』
Hamlet


ルネサンス文学で初めて、いや、世界文学の歴史で初めて、本格的に人間の内面宇宙の
秘密を描いた劇だ。復讐劇の衣を着ているが、実は、問うことをめぐる推理劇なのだ。

シェイクスピア全作品解説、登場人物

ハムレットの父の亡霊
クローディアス:デンマーク国王
ガートルード:王妃、ハムレットの母
ハムレット:先王の息子、現王の甥
ポローニアス:内大臣
レアティーズ:ポローニアスの息子
オフィーリア:ポローニアスの娘
ホレイシオ:ハムレットの友人
ローゼンクランツ:ハムレットの学友、国王のスパイ
ギルデンスターン:上に同じ
フォーティンブラス:ノルウェー王子
旅役者たち:ハムレットの依頼で劇中劇を演じる
墓掘り:道化

シェイクスピア全作品解説、あらすじ

デンマークのエルシノア城では、夜ごと、ものものしい警戒が行われていた。というのも、ノルウェーとの緊張が日増しに高まっていたからである。そんなさなか、衛兵の前に、先王ハムレットの亡霊が現れる。王子ハムレットは留学先から、新王の戴冠式・結婚式に参列するために戻っていたのだが、父王の死からまだ立ち直らないうちに、母の再婚である。もともとメランコリー気質のハムレットはますます陰鬱になり、自殺さえ考えている。そこに、父王の亡霊の知らせである。その知らせを受けたハムレットは胸騒ぎがしてならない。ハムレットはさっそく深夜、城壁に立つ。時刻どおり亡霊は現れ、ハムレットに向かって、現王クローディアスに毒殺されたときの模様を語る。
その日からハムレットは人間がすっかり変わってしまった。王は、いつもと様子の違うハムレットが気掛かりでならない。そこで、学友のローゼンクランツとギルデンスターンを呼びつけ、ハムレットの様子をうかがわせることにするが、ポローニアスは、王子の錯乱は、娘のオフィーリアに失恋したせいだと言いはる。ハムレットは、探りを入れに近づくポローニアスやローゼンクランツたちに、ときには狂人のように、ときには悩める若者のようにふるまい、尻尾をつかませない。
そこに旅役者の一行が到着し、ハムレットは、さっそく好きな悲劇のひとこまを聞かせてもらう。お気に入りの役者が、自分のことでもないのに涙を流し、声を震わせるのを見て、ハムレットは激しくこころを動かされ、父に復讐を誓ったくせに、なにひとつ行動できない自分を責める。王が手を下したというたしかな証拠を掴むべく、亡霊から聞いた殺害の場面を、王の前で旅の一座に演じさせることを思いつく。
恋わずらい説を捨てきれないポローニアスは、オフィーリアをハムレットに会わせ、その様子を壁掛けの陰から立ち聞きしようとする。そこへ王子が、生きること、死ぬことの疑問を自問しながらやってくるが、オフィーリアに気づくと、突然、彼女に向かって毒を含んだことばを投げつけて、走り去る。これを聞いていた王は、狂気の装いの奥に危険なものを感じとり、イギリスへ貢ぎ物の督促にやるという口実で、やっかい払いをしようと決心する。
王宮の広間は、これから芝居が始まるというので、華やいだ空気に包まれている。ハムレットはいつになく上機嫌で、オフィーリアをからかったりする。芝居の内容は、ハムレットがあらかじめ指図しておいたものだ。王殺害の場面になると、王はうろたえ、席から立ち上がり、恐れおののいてその場を去る。証拠を掴んだハムレットは、お祭り気分で歌まで歌い、今ならどんな残忍なことでもやれると言う。にもかかわらず、王妃に呼ばれて部屋へゆく途中、罪の懺悔をしている王を見かけ、剣まで抜いたのに、祈りの最中ではわざわざ天国へ送り届けるようなものだと、復讐を先延ばしにしてまう。
王妃の居間に入ると、ハムレットは母に向かい、情欲のとりことなって、神のような父を忘れ、見下げはてた男へと走ったことを責め立てるが、壁掛けの奥で物音を聞きつけ、王と勘違いして、ポローニアスを刺し殺す。それを聞いた王は、ハムレットを一刻も早くイギリスへやり、そこで暗殺させようと図る。
父を亡くしたオフィーリアは、正気を失い、歌を歌ったり、取り止めもないことを口走ってばかりいる。父の訃報をうけ、フランスから駆けつけたレアティーズを見ても兄と分からず、たわいなく人々に花を配る妹に、レアティーズは激しく取り乱す。そこへ、イギリスで殺されているはずのハムレットから手紙が届いたので、王はレアティーズを利用して、無傷で帰国したハムレットを葬り去ろうと企てる。ふたりが話している最中に、突然、オフィーリアの溺死が知らされる。
ハムレットは、墓地であたらしい墓穴を掘る墓掘りと話すうち、土から掘り出された昔なじみのヨリックの骸骨を見て、人間のいのちのはかなさを思う。墓は溺死したオフィーリアのものだった。妹の死骸を抱いて大げさに嘆くレアティーズを見て、ハムレットは、何万人の兄よりもオフィーリアを愛していたと叫び、つかみ合いの喧嘩になる。
宮廷に戻り、ハムレットがホレイシオに、船旅でのできごとの一部始終を話していると、レアティーズから剣の試合に誘われる。ハムレットは一瞬、いやな予感がするが、すべては天命と割り切り、試合に出かけ、レアティーズと腕試しを始める。この試合はハムレットを葬るため、王によって仕組まれたものだった。切っ先を丸めてない剣で刺されて、初めて策略に気づき、剣を奪って、レアティーズを刺し返す。そこへ、王妃が苦しみだし、ワインに毒が入っていることを告げて、息絶える。次には、レアティーズが、みずから剣先に塗った猛毒で死ぬはめになった、と告白し、王にこそ罪があると訴えて死ぬ。逆上したハムレットは、剣で王を刺し、毒杯を飲ませ、王を殺すが、すでにからだ中に毒はまわり、口も自由にきけなくなっていた。折しも、ポーランドから凱旋中のノルウェー王子を迎える砲声が聞こえる。ハムレットはホレイシオにあとを託し、フォーティンブラスをデンマーク王に推すと、息を引き取る。ハムレットの遺体が高々とかかげられ、弔砲とどろくなか、劇は終わる。

シェイクスピア全作品解説、見どころ

『ハムレット』は、一応は復讐劇である。しかし、よーいドンで一直線にゴールに向かって進む劇ではない。というより、ゴールはあるのか、向うに見えているのか、よく分からない劇だ。そういうはっきりとした目的をもった劇として考えようとすると、この作品は不可解な迷宮になる。失敗作という批評家もいるくらいだ。
『ハムレット』ほど批評家を悩ましてきた劇は類を見ない。毎年発表されるおびただしいほどの批評、論文をみてもそれが分かる。決定的な解決はありそうもない。にもかかわらず、というより、だからこそ、ひとは問いつづけるのだ。
だから、むしろ、はじめから人間の内面宇宙を問うことをテーマにした劇として見た方がすんなりと受け入れられるのではないか。しかし、人間の内面宇宙そのものが、すでに迷宮なのだから、ひとは永遠に問うことをやめられないはずだ。だから、『ハムレット』論も永遠に終わることはない。こうした堂々巡りが『ハムレット』の最大の魅力だ。すっきりとした答えがないと気持ち悪いというひとには勧められない作品だ。
しかし、この作品により、人類が初めて人間の内面と正面から向き合うことになるのだから、『ハムレット』が人類の精神文化に与えた影響は計り知れない。シェイクスピアもかなり力を入れて執筆している。ある学者の計算では、シェイクスピアはそれまでの作品で使ったことのない単語を約600語、この作品につぎ込んでいる。しかも、その多くは英語の歴史でも初めて使われる意味やことばだった。斬新な経験を表すには斬新なことばを必要とする。シェイクスピアは、人類がまだ経験したことのない宇宙を前に、その天才を振りしぼるようにして、新しいことばを生み出していったのだ。
『ハムレット』は筋としてはのらりくらりとして、一貫性に欠くものの、至るところ、こころの奥に響く問いかけを用意して私たちを立ち止まらせる。ハムレットのいくつもの独白もそのひとつだ。一度、独白を聞くと、観客はその深みから劇を見るように促され、舞台は内面性をつぎつぎに深めてゆく。だから、舞台上で起こるひとつひとつの出来事は、日常のひとこまのように見えながらも、不意に、内奥へとつづく暗い闇を見せる。たとえば狂ったオフィーリアの

Lord, we know what we are, but know not what we may be.
(ほんとね、自分のこと分かってたって、これからどうなるか、なんにも分からないものね。)

というつぶやきに、私たちは沈黙するしかない。
そういう意味で『ハムレット』は私たちに突きつけられた一種の試金石だ。呼応する内面宇宙をもたなければ、この作品は貧弱な失敗作になり、響き合う問いを持っていれば、無限の宝庫となる。

シェイクスピア全作品解説、名台詞
シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くをクリックすると台詞の朗読が聴けます。

(名台詞が多いので、コメントは付けるとしても手短にした。くわしく知りたいところは作品に当たって欲しい。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くKING. But now, my cousin Hamlet, and my son--
HAMLET. [aside] A little more than kin, and less than kind!
KING. How is it that the clouds still hang on you?
HAMLET. Not so, my lord. I am too much i' th' sun.
(王:さて、甥でもあり、また、息子でもあるハムレットよ。ハムレット:(傍白)親戚にはちがいないが、なれなれしくされてたまるか!王:おまえの上にはいつも雲がかかっているが、いったいどうしたことだ。ハムレット:いや、いや、それどころか、陽に当たりすぎております。)
sunは地口で、息子(son)の意味をかけている。つまり、息子、息子と呼ばれつづけている、という皮肉だ。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くKING. Though yet of Hamlet our dear brother's death
The memory be green, and that it us befitted
To bear our hearts in grief, and our whole kingdom
To be contracted in one brow of woe,
Yet so far hath discretion fought with nature
That we with wisest sorrow think on him
Together with remembrance of ourselves.
Therefore our sometime sister, now our queen,
Th' imperial jointress to this warlike state,
Have we, as 'twere with a defeated joy,
With an auspicious, and a dropping eye,
With mirth in funeral, and with dirge in marriage,
In equal scale weighing delight and dole,
Taken to wife;
(最愛の兄ハムレット崩御の記憶がまだ生々しいなかで、我らひとりひとりが悲嘆に沈み、国を挙げて哀悼の意を表すことはごく自然のふるまいではある。しかし、分別は情けとの戦いに勝ち、われらに忠告した。先王をしのぶにも節度を保ち、生きながらえるべきわれら自身を忘れてはならぬ、と。よって、ここに、かつての妹、今は女王、武勇の国の気高き王妃を、いわば沈痛な歓喜とともに、右目には笑みを、左目には涙を浮かべ、葬儀の陽気、婚儀の悲哀を身にまとい、喜びにも悲しみにも傾くことなく、妻に迎えた。)

長い引用になったが、この長さがこの台詞のいのちなのでどうかご辛抱頂きたい。クローディアスは先王を殺害して王位に上り先王の后と結婚した。強引な遣り口だ。長々しくしゃべりまくり、聴き手をけむに巻こうとする魂胆がここに隠されている。王の死による国民の動揺を鎮めようと一見理論的な計らいをしているようだが、その冷静な理論の裏には地位と色への欲望が煮えたぎっている。その熱を隠すために修辞で固めた異様に長い文章をしゃべりつづる。

Therefore our sometime sister, now our queen,
Th'imperial jointress to this warlike state,
Have we, as 'twere with a defeated joy,
With an auspicious, and a dropping eye,
With mirth in funeral, and with dirge in marriage
In equal scale weighing delight and dole,
Taken to wife.

オクシモロンのオンパレードだ。これこそがクローディアスの(そして、シェイクスピアの)老獪さといえる。赤字の完了形に注目!(Have we. . . Taken to wife.) この間に不自然に押し込まれた29語が、妻を迎える後ろめたさを隠そうとする現王の隠れもないたくらみだ。この台詞は王位就任の演説としても、王位簒奪者の告白としても、興味深い台詞だ。悪の華とでもいうべき「美しい醜さ」を楽しもうではないか。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くPOLONIUS. This above all-- to thine own self be true.
(とりわけ、おのれ自身には正直であれ。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. O my prophetic soul!
(俺の勘があたってしまった!)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. That one may smile, and smile, and be a villain;
(ひとはにっこりほほえみながら、悪人になれるのだ。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. There are more things in heaven and earth, Horatio,
Than are dreamt of in your philosophy.
(ホレイシオ、天と地の間にはお前の哲学では思いも寄らないことがまだまだあるぞ。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. The time is out of joint. O cursed spite
That ever I was born to set it right!
(時の関節がはずれている。なんてことだ、それを直すためにこの世に生まれるとは!)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くPOLONIUS. Do you know me, my lord?
HAMLET. Excellent well. You are a fishmonger.
(ポローニアス:私がお分かりになりますか?ハムレット:もちろんよく知っている。おまえは魚屋だ。)
魚屋には、売春の仲立ちをする男の意味もある。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. Why, then 'tis none to you; for there is nothing either good or bad but thinking makes it so. To me it is a prison.
(そうか、それなら、おまえたちには牢屋ではないのだ。ものの善し悪しは考え方ひとつで決まる。俺には、ここは牢屋なのだ。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. I have of late-- but wherefore I know not-- lost all my mirth, forgone all custom of exercises; and indeed, it goes so heavily with my disposition that this goodly frame, the earth, seems to me a sterile promontory; this most excellent canopy, the air, look you, this brave o'erhanging firmament, this majestical roof fretted with golden fire-- why, it appeareth no other thing to me than a foul and pestilent congregation of vapours.
(最近、自分でも分からないのだが、すっかり明るい気持をなくし、日頃の運動もやめてしまった。とりわけ、気持がふさいで、地球という素晴らしい建物も、自分にとっては荒れ果てた岬のように見える。大空という極上の天蓋、頭上に広がる美しい蒼穹、黄金の光をともなった壮麗な大屋根も、自分には、毒気を含んだ蒸気の集まりとしか見えない。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くWhat a piece of work is a man! how noble in reason! how infinite in faculties! in form and moving how express and admirable! in action how like an angel! in apprehension how like a god! the beauty of the world, the paragon of animals! And yet to me what is this quintessence of dust?
(人間とはなんという傑作だろう!崇高な理性、無限ともいえる肉体の働き、かたち、動き、ともに驚くほど的確、行動は天使のごとく、こころの働きは神のごとく。人間は、まさにこの世の美、万物の手本。だが、自分とっては、この土くれのなかの土くれはなんだ?)
「土くれのなかの土くれ」とはもちろん人間を指す。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. 'Twas caviary to the general
(ああいう渋い劇は、大衆にキャビヤを出すようなものだ。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. What's Hecuba to him, or he to Hecuba,
That he should weep for her?
(ヘキュバのためにあれほど泣くとは、いったいヘキュバが彼の何だというのだ、彼はヘキュバの何なんだ?)
役者が別世界を創り出す力にこころ動かされたハムレットは、いよいよ復讐へと一歩を踏み出す。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET.         Bloody bawdy villain!
Remorseless, treacherous, lecherous, kindless villain!
O, vengeance!
(血の匂いのする、色好みの下司下郎め!残忍な裏切り者め、情欲まみれの卑劣漢め!さあ、復讐だ!)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET.       The play's the thing
Wherein I'll catch the conscience of the King.
(王の良心をつかむには、劇こそまさにうってつけ。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. To be, or not to be-- that is the question:
Whether 'tis nobler in the mind to suffer
The slings and arrows of outrageous fortune
Or to take arms against a sea of troubles,
And by opposing end them.
(生きるか、死ぬか、それが疑問だ。一体どちらが立派と言えるのか、残忍な運命の矢玉をじっと耐え抜くのか、それとも、海なす苦難をものともせず戦い抜いて、根だやしにするのか。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. Get thee to a nunnery!
(尼寺へゆけ!)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. Suit the action to the word, the word to the action; with this special observance, that you o'erstep not the modesty of nature: for anything so overdone is from the purpose of playing, whose end, both at the first and now, was and is, to hold, as 'twere, the mirror up to nature.
(しぐさに台詞を合わせ、台詞をしぐさに合わせてくれ。特に大事なことはやりすぎないことだ。というのは、どんなことでもやりすぎると芝居の目的からはずれてしまうからだ。昔も今も、芝居の目的はひとつ、この世のありようを鏡に映し出すことだ。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. Is this a prologue, or the posy of a ring?
OPHELIA. 'Tis brief, my lord.
HAMLET. As woman's love.
(ハムレット:これは口上か、それとも、指輪の銘か?オフィーリア:あっという間に終ってしまいました。。ハムレット:女の恋のようにな。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くKING. O, my offence is rank, it smells to heaven;
It hath the primal eldest curse upon't,
A brother's murther!
(ああ、私の罪は悪臭を放ち、天まで臭う。兄殺し!これには人類最古の呪いがかかっている。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くKING. My words fly up, my thoughts remain below.
Words without thoughts never to heaven go.
(ことばは宙に舞い、思いは地に残る。思いのこもらぬ祈りは天には届かぬ。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. Assume a virtue, if you have it not.
(徳がなければ、徳のあるふりをなさい。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. I must be cruel, only to be kind;
(残酷にふるまうのも、ためを思えばこそなのです。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くOPHELIA. To-morrow is Saint Valentine's day,
All in the morning betime,
 And I a maid at your window,
To be your Valentine.
(明日は聖ヴァレンタインの日。朝早くから、あなたの窓辺で、私はあなたのヴァレンタイン。)
このオフィリアもの狂いの歌は、当時のメロディが譜面で残されている。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くQUEEN. There is a willow grows aslant a brook,
That shows his hoar leaves in the glassy stream.
(柳の木が小川の岸に斜めに生え、川面に白い葉裏を見せている場所があります。)
有名なオフィーリア溺死を伝える台詞の出だしだ。この台詞の魅力に惹かれ、これまで多くの画家がオフィーリアの溺死を画題にしてきた。willowは不幸な恋を暗示している。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. Alas, poor Yorick! . . . Where be your gibes now? your gambols? your songs?
(かわいそうなヨリック!おまえの毒舌はどこへいった?おまえの踊りは、歌は、どこへいった?)
どくろを手にしてハムレットがつぶやく、絵になる場面だ。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. Imperious Caesar, dead and turn'd to clay,
Might stop a hole to keep the wind away.
(かの皇帝シーザーも、死して土に還り、穴をふさいで、風を絶つ、か。)
ハムレットはヨリックのどくろを見て、どんなに偉大な人間も土に還れば、ビア樽の栓になりかねないことを知り、人間のいのちのはかなさを苦々しく茶化した。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くQUEEN. Sweets to the sweet! Farewell.
(美しいものに、美しい花を!さようなら。)
こういって王妃はオフィーリアに花を捧げる。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. Not a whit, we defy augury; there's a special providence in the fall of a sparrow. If it be now, 'tis not to come, if it be not to come, it will be now; if it be not now, yet it will come: the readiness is all. Since no man knows aught of what he leaves, what is't to leave betimes? Let be.
(いや、かまわない、こんな胸騒ぎなど信じるものか。すずめ一羽落ちるにも特別な神の摂理が働いているのだ。今くるなら、これから先はこない。これから先こないなら、今くる。今こないなら、これから先に必ずくる。覚悟がすべてだ。死んでしまえばあとはなにも分からないのだから、早くゆくのもいい。なるようになるさ。)
To be, or not to beがここでも、つぎの台詞でもLet (it) beになっている。心境の変化か。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. You that look pale and tremble at this chance,
That are but mutes or audience to this act,
Had I but time (as this fell sergeant, Death,
Is strict in his arrest) O, I could tell you--
But let it be. Horatio, I am dead.
(不意の出来事に青ざめ、震えているな。この場面の黙り役か観客のみんなに、時間さえあれば・・・無情な執行官の死に神めが、俺を引っ立てにきた・・・話しておきたいことが・・・だが、しかたがない。ホレイシオ、俺はもう死ぬぞ。)

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. Absent thee from felicity awhile,
And in this harsh world draw thy breath in pain,
To tell my story.
(しばらくは天上の至福から遠ざかり、せちがらいこの世の苦しみに耐えながら、私の話を伝えてくれ。)
ハムレットのあとを追って死のうとしたホレイシオを引き止め、後事を託す。

シェイクスピア名台詞の朗読(wav形式)を聴くHAMLET. The rest is silence.
(あとは沈黙のみ。)
ハムレット、最期の台詞。


シェイクスピア全作品解説、推定執筆年代、種本、初演

・執筆年代:1600〜1年
・種本:トマス・キッド『原ハムレット』、フランソワ・ベルフォレ『悲話集』
・初演:1600年
・初版:1604年

シェイクスピア全作品解説、逸話、こぼれ話

ポローニアスを演じた役者は、『ハムレット』の前年に上演された『ジュリアス・シーザー』で、シーザー役をやっていた役者と同一人物と思われる。ポローニアスが、大学時代にジュリアス・シーザーを演じたことがある、という台詞(3幕2場)から推測できる。観客はこういう楽屋ウケをねらった台詞を聞いて喜んだにちがいない。


有名な独白の「疑問」(question)ということばに呼応するかのように、『ハムレット』には、こころの奥をのぞき込むような、深い疑問を突きつける台詞が多い。「誰だ?」という開幕の第一声がすでに疑問文だ。そして、きわめつけは、うめき声のような「自分とっては、この土くれのなかの土くれはなんだ?」(And yet to me what is this quintessence of dust?)という人間存在に対する疑問だ。


謎の多い作品だが、劇中劇を見て、王がおびえたのはなぜだろう?事情を知っているハムレットや、観客は、自分の罪におののいたものと思いこんでしまうが、劇中劇の内容は、甥が王を殺害するものだ。王の秘密を知らない人々は、クローディアスが、自分の甥であるハムレットに殺されるのではないかと恐れて、取り乱したと思ったのではないか?


QUEEN. He's fat, and scant of breath.
(あれは太っているから、息切れしてます。)

この台詞はハムレットに向けられたものだ。「えっ、あのハムレットが太っていた!」とびっくりしたかも知れない。この箇所は長い間、シェイクスピア学者だけでなく、役者、そして、読者を悩まし続けてきた。しかし、現在このfatを「太っている」と解釈する学者はほとんどなくなった。ハムレット像を決定付ける意味の劇的変化に一役買った出来事を紹介する。
1924年のはじめ、オハイオのウスター大学の授業で『ハムレット』を読んでいたとき、教授がこの台詞の意味に関してまだ満足のゆく解釈がないことを告げると、ある女子学生が「これは〈汗をかいている〉という意味ではないでしょうか」と発言した。その斬新な解釈の根拠を尋ねると、こんな話を始めたという。
前の年の夏、友人数人と車でウィスコンシン州の田舎を旅行していたときのこと。あまりの暑さに、とおりかかった農家で水をもらおうとすると、そこの奥さんからHow fat you all are! と言われた。だれも太ってはいなかったので、聞いてみると「なんて汗をかいているんでしょう」と言っていることが分かった。
方言に残された古い意味が、シェイクスピア解釈に重要な発見をもたらしてくれたのだ。

シェイクスピア全作品解説、映画、舞台

名作の名にふさわしく、映画も力作がたくさんある。
古典的な『ハムレット』はやはり、オリヴィエ監督主演の白黒映画(1964年)だろう。好みにもよるだろうが、この劇は放っておいても内面へと向くのだから、内面描写は下手にしない方がよい。
フランコ・ゼフィレリ監督、メル・ギブスン主演の映画(1990年)もおすすめだ。さすがにゼフィレリである。つぼは決してはずさない。
一番新しいのはケネス・ブラナー監督主演の映画(1996年)だが、才気が空回りしている分だけ、魅力が失せている。
また、いわゆるバックステージものにトム・ストッパード作『ローゼンクランツとギルデンスターンは死んだ』(トム・ストッパード監督、1990年)がある。かなり『ハムレット』を読み込んでいないと楽しめない。挑戦してみては?

シェイクスピア全作品解説、日本のシェイクスピア

劇ではないが、『ハムレット』を独自の視点で捉え直して書かれた文学作品が少なからずある。志賀直哉『クローディアスの日記』、小林秀雄『おふえりあ遺文』、太宰治『新ハムレット』、福田恆存『ホレイショー日記』、大岡昇平『ハムレット日記』など。

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