ドン・ジョンは闇の逆説を秘めた役だ。もっとも赤裸々に語るとき、もっとも自分を隠し、もっとも隠すとき、もっとも露わに自己表現している。
DON JOHN. I cannot hide what I am: I must be sad when I have cause, and smile at no man's jests.
(俺は自分を隠すことができない。悲しい理由があれば悲しみ、冗談を聞いても笑わない。)
そう言ったあと、ぬけぬけとおのれの悪を告白する。
DON JOHN. In this, though I cannot be said to be a flattering honest man, it must not be denied but I am a plain-dealing villain.
(つまるところ、おべっか使いの正直者とは言えないが、立派な悪人であることは確かだ。)
ここまではっきり悪人宣言をされると小気味よくもある。悪人冥利に尽きるところだ。もちろん、この「悪」は単細胞的な悪ではない。ねじれにねじれた悪だ。だから、当然のことながら、この場面でドン・ジョンの闇が表出されないと劇全体のバランスが崩れる。
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