母親が夫であるデンマーク王の死を悼む間もあらばこそ、ひと月もしないうちに王の弟クローディアスの妻になったことがハムレットにはどうしても納得できない。いともやすやすと心変わりする女を軽蔑して吐き捨てるように言ったことば。そこには母に対する複雑に屈折した思いが託されている。又、同時にここに述べられている、女=弱い、という図式は当時の決まり文句のようなもので、シェイクスピア劇の女性達はしばしばこの種の台詞を口にする。例えば『十二夜』のヴァイオラの
Alas,
Our frailty is the cause, not we! (II.ii.31)
ああ、私たち女の弱さがいけないんだわ、私たちのせいじゃない。
のように。
ここに展開されている、女と女の弱さは別物という発想は、聞きようによっては責任逃れにも受け取れるが、
人間の他に、人間の属性をひとつの存在として認める思考法は我々の発想にはないシェイクスピア独自のものの見方とも受け取れる。それゆえ、上の『ハムレット』の例も、ハムレットが責めているのは女の弱さであり、母ガートルードその人自身ではない、という解釈も生まれる。
このことばはまるでことわざのように一人歩きしているが、現代では受けないことばではある。
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