シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

計ったように時間ぴったりにやって来たな。
You come most carefully upon your hour.
作品解説
『ハムレット』1幕1場


城の見張台で深夜の夜警を勤めるフランシスコが、交代にやって来たバーナードに言ったことばだが、'carefully'に潜む意味の層が面白い。

幽霊が出るという見張台での夜警は兵士と言えども恐ろしいものだ。一刻も早く任務を終えたい。もう交代の時間ではないのか。一体バーナードは何をぐずぐずしているのだ。そこへ彼が現れる。思わず皮肉な口調になる。ずいぶん時間に正確ではないか。こんな時くらい、もっと時間にいいかげんになって、早目に来たらどうだ・・・。これが第一の意味。つまり、'carefully'は「几帳面に」「律儀に」の意味。皮肉とは表の意味と裏の意味のずれをいうから、第一の意味だけでもすでに二重になっている。

'care'には心配、不安の意味もある。だから'carefully'は「心配事を抱えて」の意味にもなる。そうすると、この台詞は幽霊が出る場所に恐る恐るやって来た仲間のこころを言い当てることばとなる。

このようにシェイクスピアのことばの奥には日本語に訳そうにもほんの一部しか訳せない二重、三重の意味の層があり、翻訳者を困らせ、読者を喜ばせる。


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