シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

どのように時代は過ぎても、我らの行なったこの崇高な場面は繰り返し演ぜられることであろう。
How many ages hence
Shall this our lofty scene be acted over.
作品解説
『ジュリアス・シーザー』3幕1場


シェイクスピアの特徴的な世界観である「この世は舞台」という考え方がよく現れている台詞。シーザー暗殺に成功した後、キャシアスが興奮さめやらぬ口調で言ったことば。彼は自分たちの行為の正当性を微塵も疑っておらず、誇らしげにこのことばを語る。

この予言のことばを聞くと不思議な感じがする。というのは、これを聞いているあいだ私たちのこころはローマ時代にあって、たった今シーザー暗殺を目撃し、この予言を聞いているような錯覚に陥るからだ。その次の瞬間、自分が日本にいて、キャシアスが日本語でしゃべっていることに気づき、なるほど、たしかにキャシアスの予言どおり、こうして日本語という当時のローマには知られていなかったことばで「崇高な場面」が上演されているな、と感心してしまう。しかし、ちょっと考えてみれば分かるとおり、これはローマ時代ではなく、エリザベス朝に作られたものであり、上演しようとしている側から書かれているものなのだから、この予言は当たって当たり前なのだ。しかし、それは理屈だ。観客の心理はそんな風に理詰めで動くわけではない。そういう時間軸の移動が実におもしろい。

この台詞は、同時に、「自分の劇は何百年たっても上演されつづけられるだろう」とシェイクスピアがキャスカの口を借りて予言しているとも言える。この予言は当って当り前のものではない。偉大なるかな沙翁!


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