シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

ブルータスは立派な人間だ。
Brutus is an honourable man.
作品解説
『ジュリアス・シーザー』


アントニーの演説は、ブルータスの演説と違って、腹に一物をかかえてのものです。はじめからブルータスを逆賊扱いしようという意図のもとに綿密に計画された演説です。そのなかで一番重要なのがことばの魔術を使うことでした。アントニーは何度も「ブルータスは立派な人間だ。」と言い、直接「あいつは反逆者だ」と叫ぶよりも、はるかに大きな効果を得ました。何故でしょうか?

次の台詞は演説のなかで一番民衆のこころを動かすところです。

ANTONY. You all did see that on the Lupercal
I thrice presented him a kingly crown,
Which he did thrice refuse. Was this ambition?
Yet Brutus says he was ambitious,
And sure he is an honourable man.
(みんなも見ていたろう、ルペルカリアの祭日に、私は三度シーザーに王冠を捧げ、シーザーは三度王冠を退けた。これが野心だろうか?しかし、ブルータスはシーザーが野心を抱いたと言う。そして、もちろん、ブルータスは立派な人間だ。)

策士アントニーのことばの魔術が効き始めます。「ブルータスは立派な人間だ」を何度も繰り返すことで、はじめはことばどおりに受けとっていた群衆も、だんだん、裏の意味に気づいてゆきます。裏の意味を解読するのが民衆であるという点が重要です。あいつは反逆者だ、と意見を押しつけられていない群衆は、自分で発見した裏の意味を、真実と信じてしまうのです。これが皮肉の恐ろしい力です。

最近の演出では煽動者を客席に配置し、観客が群衆となって煽動者といっしょに叫んだりします。群集心理が沸き立つ場面です。


Copyright (C) 2003 戸所宏之 引用の際はURLの表示をお願いします

inserted by FC2 system