シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

もうおまえは戻っては来ない、二度と、二度と、二度と、二度と、二度と。
Thou'lt come no more;
Never, never, never, never, never.
作品解説
『リア王』5幕3場


末娘コーディリアの死を痛ましい諦念の中で受け入れるリアの台詞だ。悲しいとき、胸を裂かれる思いがするというが、この傷ましい疑問文は、世界文学でもっとも悲痛な疑問文だろう。また、5回繰り返される'never'は異常である。この常軌を逸した繰り返しは役者泣かせだ。よほどの力量がないと間の抜けた嘆き節に終ってしまう。しかし、それにしても、のキャピュレットの''Tis gone, 'tis gone, 'tis gone.'(『ロミオとジュリエット』1幕5場)、マクベスの有名な'Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow'(『マクベス』5幕5場)、そして、先王ハムレットの亡霊の'Adieu,adieu, adieu.'(『ハムレット』1幕5場)と、シェイクスピアは繰り返しを力強い詩に変えてしまう作家である。繰り返しといっても大抵はこのように3回だが、リアの5回にはそれだけ深い嘆きと、錯乱した精神が見て取れる。


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