シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

あした、あした、そして、あしたと、しみったれた足取りで日々が進み、
ゆきつく先は運命に記された最後の時だ。
Tomorrow, and tomorrow, and tomorrow
Creeps in this petty pace from day to day
To the last syllable of recorded time;
作品解説
『マクベス』5幕5場


頼みとするマクベス夫人の訃報を受けて、マクベスが深い絶望の淵からつむぎだすように語る、虚無のことばだ。さらにつづけて

And all our yesterdays have lighted fools
The way to dusty death.
(振り返ってみれば、きのうというきのうは、すべて、愚か者たちをちりにまみれた死へと導くむなしい明かり。)

という宿命論的なことばを吐出すマクベスの口から漏れ出るのはつぎのような世界劇場思想だ。

Out, out, brief candle!
Life's but a walking shadow, a poor player
That struts and frets his hour upon the stage
And then is heard no more.
(消えろ、消えろ、つかのまの蝋燭!人のいのちは歩き回る影法師、哀れな役者にすぎぬ。精一杯出番を勤めるが、それが終われば、なにも残らぬ。)

シェイクスピアは、いのちの極みに立つ登場人物に、しばしばこの思想を語らせている。なぜなら、死を目前にして初めてひとはおのれの本性を見るからだ。すがるべきたづきをすべて失ったとき、あらゆる雑念が拭い去られ、地上にいながら、彼岸の真理が可視化されるのだ。逆に言えば、そこまで至らなければひとは今日のこと、明日のことでこころを奪われ、彼岸の真理など目もくれないのだ。マクベスにとって王位は生身の情欲の対象だった。しかし、今やその王位もあわれな役者の演戯のみぶりによって浮び上がる陽炎にすぎない。そこにあるのは「無」だけだ。


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