シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

今に見ていろ、弱みをにぎりさえすれば、つもりにつもった恨みをはらしてやる。
If I can catch him once upon the hip,
I will feed fat the ancient grudge I bear him.
作品解説
『ヴェニスの商人』1幕3場


シェイクスピアは、アントーニオを見かけて、次のように独り言を言う。

[Aside]I hate him for he is a Christian;
But more for that in low simplicity
He lends out money gratis, and brings down
The rate of usance here with us in Venice.
([傍白]俺があいつを嫌うのはあいつがキリスト教徒だからだ。いや、それ以上に、正直顔してただで金を貸してることが気に入らん。おかげでヴェニスの利率は下がる。)

つづいて、冒頭の不気味な宣戦布告が語られるのだが、この台詞はシャイロックの最初の聞かせどころだ。シャイロックの感情には少なくとも自分で納得する理由がある。虐げられた少数民族としての理由の申し立てが共感を呼ぶこともあれば、ここでのように、逆に反感を買うこともある。

ここでの不人気は唐突に金銭上の不平不満を理由に、恨みをはらそうとする理不尽さにある。シャイロックは、作品を通してみると、論理、道理を重んじる人格と、不条理な暗い怨念に取りつかれた人格とに分れている。基本的には賢い人間だが、内奥にくすぶる不条理の炎のために、その賢さが却って非人間的な残忍さに映る。

自分でもどうにも抑えられない衝動に突動かされる人間を描き得たこと自体、シェイクスピアの最初の記念碑的な業績であろう。


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