シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

誰もが美しい者から子孫が生まれることを願う。
そうすれば美しいバラが枯れることはないからだ。
From fairest creatures we desire increase,
That thereby beauty's rose might never die,
作品解説
『ソネット集』1番


美青年を詠んだ1番から126番までのソネットの中に奇妙な連作がある。美青年に結婚して子孫を残すことを勧める1番から17番までのソネット群だ。ほかのグループとすこしおもむきが異なるので「勧婚章」と呼んで区別されている。その中の最初のソネットである1番は美青年による美の浪費を嘆いている。

From fairest creatures we desire increase,
That thereby beauty's rose might never die,
But as the riper should by time decease,
His tender heir might bear his memory:
But thou contracted to thine own bright eyes,
Feed'st thy light's flame with self-substantial fuel,
Making a famine where abundance lies,
Thy self thy foe, to thy sweet self too cruel:
Thou that art now the world's fresh ornament,
And only herald to the gaudy spring,
Within thine own bud buriest thy content,
And tender churl mak'st waste in niggarding:
Pity the world, or else this glutton be,
To eat the world's due, by the grave and thee.

誰もが美しい者から子孫が生まれることを願う。
そうすれば美しいバラが枯れることはないからだ。
年老いた者が時の滅びをうけるとき
若い後継ぎが親の思い出を引き継ぐ。
それなのに君は自分の目の輝きに見とれるあまり、
自分の燃料で自分の炎を燃やしつくし、
豊饒の大地で飢饉を引きおこす。
そんな君は自分の敵であり、美しい自分に冷酷すぎる。
今や君はこの世のみずみずしい宝、
極彩色の春のさきがけ。
そんな君が自分のバラをつぼみのまま終らせたら、
けちんぼさん、そんな物惜しみはひどい浪費だ。
 世間をあわれみなさい、それがいやならそれでいい、
 あんたのお陰でこの世の宝もお墓行きだ。

単純に、君は美しいひとなのだから子孫を残して、その美を滅ぼさないようにしよう、と説得するかたちで美青年の美を誉めたたえている詩と読むのもいいだろう。でも、どうも様子が変だ。そんな詩を17編も立てつづけに歌わなくてもいいではないか。そうなると裏を読みたくなるのが人情だ。

これほど結婚を勧めるということは、美青年がよほど結婚を嫌っているからではないだろうか。なぜ?ソネットに書かれている内容から推測すると(もっともその内容にしても、解釈しだいでどうにでも変わってしまうものだが)その理由のひとつがこの若者の性の逸脱だ。自慰にふけりすぎているのか、それとも、同性愛者なのか、はっきりしたことは言えないが、女性を愛し、子孫を残すのとは違った方向へ美青年は無軌道に進もうとしているようだ。

『ソネット集』巻頭の詩がこれである。一筋縄ではゆきそうにない。


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