シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

かつて黒は美しい色として数えられなかったし、
美の名前で呼ばれることもなかった。
In the old age black was not counted fair,
Or if it were it bore not beauty's name:
作品解説
『ソネット集』127番


In the old age black was not counted fair,
Or if it were it bore not beauty's name:
But now is black beauty's successive heir,
And beauty slandered with a bastard shame,
For since each hand hath put on nature's power,
Fairing the foul with art's false borrowed face,
Sweet beauty hath no name no holy bower,
But is profaned, if not lives in disgrace.
Therefore my mistress' eyes are raven black,
Her brows so suited, and they mourners seem,
At such who not born fair no beauty lack,
Slandering creation with a false esteem,
Yet so they mourn becoming of their woe,
That every tongue says beauty should look so.

かつて黒は美しい色として数えられなかったし、
美の名前で呼ばれることもなかった。
しかし、今や黒こそ美の正当な後継者であり、
これまでの美は世継ぎから外された。
ふり返れば誰もがこぞって自然の力をだまし取り
人の手で作った借り物の顔で美を偽造した。
輝くほどの美しさを持ちながらほめられることも、崇められることもなく、
もって生まれた黒い美を白く塗られる屈辱を受けた。
そんな時代はもう終った。だから私の愛する人の目は黒いままだし、
肌も同じで、喪服の色だ。それはまるで、
色白に生まれなくても美しいものは美しいのに、
それをにせもので飾ろうとする女たちを嘆いているようだ。
 そして、彼女の黒がその嘆きにあまりに映えるので、
 誰もがこぞって、黒こそ美と言うのだ。

このソネットは「黒い貴婦人」を歌った一連のソネット(127番−152番)の最初のものだ。これらのソネットから、切れ切れにではあるが、「黒い貴婦人」の特徴をうかがい知ることができる。127番からは目の色、肌の色が黒いこと、130番では髪も黒いことが分る。不道徳で(131番)、貪欲で(134番)、平気で嘘をつき(138番)、男たちに媚を売り(139番)、性の技巧に長けている(150番)。137番の「男どもが乗り入れる港」という表現はもしかすると彼女の職業を暗示しているかも知れない。一方で、ヴァージナルという楽器を巧みに演奏する特技をもっている(128番)。われらがシェイクスピアはそんな「黒い貴婦人」の愛の奴隷となり(141番)、にっちもさっちもいかない状態なのだ。

シェイクスピアはこのソネットで彼女の特徴である「黒」を美しいものとして讃えている。当時「黒」は地獄をあらわす色だったし、女性の色白を讃えるソネットの流行に逆らって黒を讃えるのはかなりの冒険だったはずだ。こうした「黒」への執着は、シェイクスピアの実生活を解きあかす手がかりにはならないが、芸術的野心の強さの証にはなる。


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