シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

造化の女神が彩った女の顔、
それが君の顔だ、私が熱愛する男でありかつ女の君よ。
A woman's face with nature's own hand painted,
Hast thou the master mistress of my passion,
作品解説
『ソネット集』20番


美青年の顔立ちはかなり女性的だったのだろう。気立ても女性的で、そのうえ同性愛に走りやすかったと見える。だから、しきりに女性と遊ぶことをそそのかしているのではないだろうか。もしかすると息子の将来を案じた両親に頼まれてこんな不道徳ともとれることをシェイクスピアは書いているのかも知れない。それにしてもすごいソネットだ。ほとんど淫猥でさえある。

全文を引用する。

A woman's face with nature's own hand painted,
Hast thou the master mistress of my passion,
A woman's gentle heart but not acquainted
With shifting change as is false women's fashion,
An eye more bright than theirs, less false in rolling:
Gilding the object whereupon it gazeth,
A man in hue all hues in his controlling,
Which steals men's eyes and women's souls amazeth.
And for a woman wert thou first created,
Till nature as she wrought thee fell a-doting,
And by addition me of thee defeated,
By adding one thing to my purpose nothing.
But since she pricked thee out for women's pleasure,
Mine be thy love and thy love's use their treasure.

造化の女神が彩った女の顔、
それが君の顔だ、私が熱愛する男でありかつ女の君よ。
女のやさしい心もあわせ持つが、不実な女によくあるような
移り気などとは縁がない
そんな女たちより君の目の方がずっと控えめなのに、ずっと輝いている。
君が見つめれば、見つめられたものはみな光り出す。
彩りのひとよ、この世のすべての彩りは思いのまま、
そうやって男たちの目を奪い、女たちの心を抜き去る。
でも君は最初、女として造られたんだよ。
女神が造っているうちに惚れこんでしまい、
自分の恋人にしようと一品加えて、私から君を奪い取ったんだ。
だってそんなものがついていては私の夢もなえ果てるからね。
でも女神の奮発は女たちを悦ばすためなんだから、
私は君に思われるだけでいい、
そのかわり女の宝はしっかり頂戴するんだよ。

「ああ、あの偉大な天才が!」と顔をしかめ、passionを「詩」と読もうとした学者の気持も分らないでもない。

しかし、美青年を少年役者と仮定すると、男でありながら女を演じる屈折を表現したものとも読める。当然男性の観客の目を奪い、女性の観客の心を抜き去ったろう。舞台上で自分の書いた作品に女役として彩りをそえている少年をシェイクスピアが熱愛するのもごく自然なことだ。『十二夜』の中で男の召使に変装したヴァイオラを公爵は少年と信じ込み「女神ダイアナの唇もおまえのほど赤く柔らかくはない」とかなり気をそそられている様子で語る場面があるが、まさにシェイクスピアの気持だったのではないだろうか?


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