シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

あれは他愛もないあやまちだったということにしよう。
私を忘れ、思いのままのしたい放題も……
Those pretty wrongs that liberty commits,
When I am sometime absent from thy heart....
作品解説
『ソネット集』41番


Those pretty wrongs that liberty commits,
When I am sometime absent from thy heart,
Thy beauty, and thy years full well befits,
For still temptation follows where thou art.
Gentle thou art, and therefore to be won,
Beauteous thou art, therefore to be assailed.
And when a woman woos, what woman's son,
Will sourly leave her till he have prevailed?
Ay me, but yet thou mightst my seat forbear,
And chide thy beauty, and thy straying youth,
Who lead thee in their riot even there
Where thou art forced to break a twofold truth:
Hers by thy beauty tempting her to thee,
Thine by thy beauty being false to me.

あれは他愛もないあやまちだったということにしよう。
私を忘れ、思いのままのしたい放題も
君の美貌と若さには似つかわしい。
そんな君の行く手にはいつも誘惑が待ちかまえている。
君はやさしくて品がある、だから、女が放っておかない、
君は美男子だ、だから、すぐに声がかかる。
女からご馳走を差し出されながら
何も食べずに帰る男なんかいるものか。
でも、彼女は私のものなのだ、すこしは遠慮したらどうだ。
あまりに気ままな君の若さと美貌を叱りつけ、
私の居場所でらんちき騒ぎは御法度にしてほしい。
いいかい、君のしていることは二重の不貞なんだ−−
 美しさにまかせて彼女を誘惑して彼女を傷つけ、
 美しさにまかせて私を裏切り君自身を傷つける。

これまでは美青年と黒い貴婦人の関係は「雲」として比喩的に語られるだけだったが(ソネット33番、34番)、このソネットで、友がシェイクスピアの愛人の誘惑に負けてしまったことがはっきりする。泥沼の三角関係がいわば表ざたになったわけだ。しかし、それでもシェイクスピアは年長者として若者をゆるす。悪いのは君ではなくて君の美しさと若さなんだ、と。愛する者の弱みだろうか、これほどひどい仕打ちを受けても強い態度に出られないでいるシェイクスピアは、人間的あまりに人間的である。

最後の一行はすこし説明が必要だろう。「私」を裏切っても友自身が傷つくわけではないが、前提として、友と「私」は一心同体なんだという発想があり、それを受けて、「私が傷つけば、当然、君自身が傷つく」、という結論になる。つづく42番ソネットでは最後の2行で、自分の愛人が美青年を愛するようになってしまったのに、「友と私は一心同体だから、彼女が愛しているのは私自身なんだ」、と苦しい自己慰謝を展開している。これも愛のなせるわざか。

しかし、ここまでシェイクスピアが入れこんでいるとなると「黒い貴婦人」についてもっとくわしく知りたくなってくるではないか!


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