シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

あなたの本質は何でしょう、あなたは何から作られているのでしょうか?
百万もの影があなたにかしづいているのはなぜでしょう?
What is your substance, whereof are you made,
That millions of strange shadows on you tend?
作品解説
『ソネット集』53番


これでもかというほど相手を誉めたたえているが、このソネットは美青年に対してyouと距離をおいた呼びかけをしている。素直に美青年への尽きせぬ愛を読んでいればいいのかも知れないが、すこし斜に眺めてみると、シェイクスピアが身を低くしてご機嫌をとっているようにもみえる。そう、まるでだれかに奪われるのを恐れているかのように。

ワイルドはこのソネットに少年役者の演技の幅を読み取っている。「影」には役者の意味もあるし、千変万化の変身ぶりは現実の人物というより役者にこそふさわしい。たぐいまれな美貌の持ち主であるばかりか、変装に変装を重ねて遊ぶ『お気に召すまま』のロザリンドを演じたかと思えば、純真無垢なジュリエットを演じ、男まさりのベアトリス(『空騒ぎ』)も、か弱いオフィリア(『ハムレット』)も演じ分けるそんな力量の持ち主ならこういう賞賛に値する、とワイルドは考える。

とすれば、ほかの劇団から引き抜かれるかも知れないとシェイクスピアが恐れるのも無理はない。このソネットに見え隠れするちょっと突きはなした態度はそれが原因かも知れない。 全文を引用する。


What is your substance, whereof are you made,
That millions of strange shadows on you tend?
Since every one, hath every one, one shade,
And you but one, can every shadow lend:
Describe Adonis and the counterfeit,
Is poorly imitated after you,
On Helen's cheek all art of beauty set,
And you in Grecian tires are painted new:
Speak of the spring, and foison of the year,
The one doth shadow of your beauty show,
The other as your bounty doth appear,
And you in every blessed shape we know.
In all external grace you have some part,
But you like none, none you for constant heart.

あなたの本質は何でしょう、あなたは何から作られているのでしょうか?
百万もの影があなたにかしづいているのはなぜでしょう?
人間はそれぞれ影をひとつだけ持っていますが、
あなたはひとりの人間なのにあらゆる影を創り出せる。
美少年アドニスの姿絵がありますが、
あれは君を描こうとして失敗したものにすぎません。
また、美の技法をつくしてヘレンの顔を描こうとしても、
結局はギリシア服のあなたを描くことになるでしょう。
うるわしの春、実りの秋にしても、
所詮あなたの美しさのものまねであり、
かぎりない豊かさをちらりと示したにすぎないでしょう。
美しいかたちがあれば必ずそこにあなたがいます。
 外見の美はすべてあなたの美しさのおすそ分け、
 でも、変わらぬ心、内面の真実はあなただけのもの。


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