シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

君が私の中に見出す季節は晩秋、
That time of year thou mayst in me behold,
作品解説
『ソネット集』73番


That time of year thou mayst in me behold,
When yellow leaves, or none, or few do hang
Upon those boughs which shake against the cold,
Bare ruined choirs, where late the sweet birds sang.
In me thou seest the twilight of such day,
As after sunset fadeth in the west,
Which by and by black night doth take away,
Death's second self that seals up all in rest.
In me thou seest the glowing of such fire,
That on the ashes of his youth doth lie,
As the death-bed, whereon it must expire,
Consumed with that which it was nourished by.
This thou perceiv'st, which makes thy love more strong,
To love that well, which thou must leave ere long.

君が私の中に見出す季節は晩秋、
かろうじて残った黄色い葉が、
大枝にすがりついて寒風に打ちふるえている。
美しい歌声が響いた聖歌隊席は昔の夢。
私の中に君が見るのは夕暮れどき、
太陽は西に沈み、たそがれのおぼろな光も
すぐにやって来る黒い夜にかき消される、
すべてを眠りへと封じこめる死の夜に。
私の中に君が見るのは暖炉の埋み火、
燃えさかったころの灰に埋もれ、
死の床で消えるのを待つ、
かつての仲間に今は息の根を止められて。
 こんなすがたを君が見れば、いやでも愛は強まり
 もうすぐ別れることになる者を大事にしてくれるだろう。

このソネットを書いたシェイクスピアはここで言われているほど年を取っていたわけではない。老境を感じるほど何かに打ちのめされていたのだろうか。だが、よく見ると、自分は年取ったとは言ってない。老いはすべて美青年の目に映るものとして描かれている。愛する者の若さを前にすると、つい自分の老い感じてしまう。そのみじめさ(あるいは、みじめなフリ)が主題なのだ。

だが、私たちは迫りくる老いへの思いに圧倒される。というのも、シェイクスピアがここで用いた構成が見事だからだ。まず一年の終わり、迫りくる冬を示し、大地の寒々しさを通して老いを実感させる。つぎに、一日の終わり、迫りくる夜を示し、闇の深さによって老いの実感を強める。最後に視点は部屋の中に入り、消えかかる暖炉の火を示したところで、老いの実感は頂点に達し、わが身に迫りくる死そのものが表現される。一年、一日、そして、たきぎの短い一生という流れで移りゆく時の早さが強調され、それに遠景から眼前への視点の移動が加わり、私たちは、老いと死が他人ごとでないことを思わずにはいられない。

シェイクスピアの深い芸術的境地を示す作品だ。


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