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天界の音楽(the music of the spheres



『ヴェニスの商人』で駆け落ちした恋人たちが夜の静かさ、無気味さ、不思議 さをめでた後、月あかりの美しさを語ります−−−

あのうちの一番小さな星でも空をめぐりながら天使のように歌を歌っているんだ、嬰児の眼をした天使たちの 声に合わせて。 (5幕1場)  
There's not the smallest orb which thou behold'st
But in his motion like an angel sings,
Still quiring to the young-eyed cherubins;

人間の耳ではきくことのできないこの美しいハーモ ニーは「天界の音楽」と呼ばれていました。天界とは、星を乗せて動かす(と考 えられた)球体で、全部で9つあり、それらが天使の支配のもとで、太陽を中心 に同心円上を回るとき、妙なる音を奏でると考えられました。ここで思いがけな い人物が登場します。数学の定理で有名な古代ギリシアの賢人ピタゴラスです。 彼がこの音楽の存在を主張したのです。当時、音楽は数学と並び重要な学問でし た。なぜなら音楽は宇宙の神秘、真理を解き明かす手掛かりを与えてくれると考 えられたからです。ですから彼は純正律音階についても有名な学説を発表しています。

 前号でお話した大宇宙・小宇宙の照応がここでも大切な役割を果たしま す。地上の音楽は、天界の音楽の神秘的な力を照応させることにより、瀕死のい のちを救い出す等の不思議な力を得ているのです−−−

耳に障る、哀しみに満ちた音楽しかないが、それでいい、鳴らしなさい。

シェイクスピア後期の作品『ペリクリーズ』(3幕3場)で仮死状態のセイザを蘇生させる場面です。耳に障ったり、哀しいのは、天界の音楽の妙なる響きを我々に感じさせるための比較表現です。

 また、『星の王子さま』の中で、鈴のように鳴り響く星の音楽のことが出てきます。時代は変っても詩人の感性は絶えず不思議を捉えていると言えます。


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