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To hear by the nose(鼻で聞く)



この句はシェイクスピアの『十二夜』からの引用です。英語の表現としては奇妙な感じがあると見え、シェイクスピアのどのテクストの註釈でも詳しく説明しています。全文は

‘To hear by the nose, it is dulcet in contagion'
−−おおよその意味は「もし鼻でこの歌を聞くことができれば、伝染病が鼻を通して伝染するように、この歌の甘さが伝染しそうだ」

となります。この文にはおもてには現れない皮肉が込められていて、そのためにこんなねじ曲がった表現をしていると見るのが通説ですが、「聞き酒」「聞香」などの言い回しをもっている日本語ではことさらめずらしい表現ではありません。むしろ私たちには上の読みは理に走った感があるのではないでしょうか。

そんなに理屈を並べずに、もっとすんなりと「鼻で聞く」こころを読み取ってしまう「五感の交流」(あるいは「共通感覚」)が日本文化の底流にはあります。上の引用句もシェイクスピアに見られる共通感覚の実例として読み取ることもできます。少なくとも、こういった五感の交流をシェイクスピアは楽しんでいたのではないでしょうか。その証拠に、『夏の夜の夢』では、謂わば妖精界の仲間入りをしたボトムが人間界に戻った時、それまでの体験の不思議さを

‘The eye of man hath not heard, the ear of man hath not seen, man's hand is not able to taste, his tongueto conceive, nor his heart to report, what my dream was.'
(A Midsummer Night's Dream, IV.i.)

と同様な五感の交流に訴えて表現しています。そこに詩聖の遊び心が見え隠れしている様に思えます。  


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