>>>舞台世界へのキーワード<<<

愛は時に仕える道化ではない。
(Love's not Time's fool.)



前回は時の破壊的な側面を紹介しましたが、今回は、そういう「時の暴虐」に打ち勝とうとする人間の挑戦を紹介したいと思います。

上の言葉はシェイクスピアのソネット116番からの引用です。私たちの肉体は時に屈服して朽ち果てるかもしれないが、愛はそうやすやすと時の変化を受けるものではない、と愛の永遠を詠った後、シェイクスピアは、「もしこれが間違いなら、私は何も書いたことなどなく、ひとは愛したことなどないことになる」と付け加えています。

ここで注目したいのは、「書くこと」と愛することが同列に扱われていることです。愛と(詩を)「書くこと」がどうやって「永遠」と等しい価値を与えられるのでしょうか。少なくとも、私たちにとって「書くこと」は永遠と拮抗できる力を持っていません。紙がふんだんに使える時代にあって、書くことは道化の話す言葉とさほど変らず、ひとつの消耗品に過ぎないからです。でも、紙や羊皮紙が貴重品だった彼の時代では、書くに値する重要なことだけが選りすぐられて書き留められました。また、言葉は、大理石に彫刻するように、削られ、磨かれ、整えられました。ですから書かれたもの、つまり「詩」が、永遠の象徴となるのはごく自然なことでした。

「愛は私の詩の中で永遠の若さを保つ」
(‘My love shall in my verse ever live young.'(ソネット19番)

という宣言は、単に詩人の自作に対する自信の表れではなく、時に打ち勝つ、書かれたものとしての詩への無限の愛着と信頼の証と言えます。

 


引用の際はURLの表示をお願いします

世界劇場だより目次へ
inserted by FC2 system