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恋は盲目(Love is blind.)



このことわざは例えば、『ロミオとジュリエット』の中で

‘If love is blind, love cannot hit the mark.'
(もし恋が盲目なら、恋は的を射貫けない)

のように使われています。あまりに言い古されているため、私達はこのことわざをあまり深く考えることはないかも知れませんが、ルネサンスの人々には違った意味で響いたはずです。つまりここで言うLoveとはローマ神話の恋の神=キューピッドのこと。上の例で直接的に語られているのはキューピッドであって、愛や恋の観念ではないのです。そこに私達現代人の「恋は盲目」観との違いがあります。

私達は観念を観念のまま(そして多くの場合、曖昧なまま)受け取ることにいつのまにか慣らされてしまっていますが、ルネサンスでは観念は先ずイメージ、つまり、像(姿形)として捉えられました。「想像する(imagine)」とは「創像する(imageを創る)」ことだったのです。

私達は「恋は盲目」を「恋する人の行為(つまり恋)は盲目的」の意味に取りますが、ルネサンスの人々は、

  1. キューピッドには目がないため、手当り次第に恋の矢を放って人を恋に陥れる
  2. 恋の矢で射られた人は恋に夢中になる、という比喩的な意味

の二つの意味に受け取っていました。もう一つ例を挙げましょう。

Love looks not with the eyes but with the mind,
And therefore is wing'd Cupid painted blind.
(恋は目ではなく心で見るもの、だから絵に描かれたキューピッドには目がないのね。『夏の夜の夢』)

観念の擬人化以上のものがここにあります。こうした姿形あるものになぞらえることが比喩の第一の機能でした。それゆえ、鮮やかで、豊かなな表現力を獲得したのです。 

 


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