あらし

シェイクスピア台詞集〜2


Miranda:
                 O wonder!
How many goodly creatures are there here!
How beauteous mankind is! O brave new world
That has such people in't!
Prospero:          'Tis new to thee.  
(in't, 'Tis は in it, It is の省略形)
ミランダ:ああ、不思議なこと!ここにはなんて素敵な人達がいるんでしょう。人間はなんて美しいんでしょう。素晴らしい新世界。こんな人々が住んでいるんですもの!
プロスペロー:おまえにはすべてが新しいからな。
(『あらし』五幕一場より)

生まれてすぐに絶海の孤島に島流しに遭ったミランダは、父親であるプロスペローの魔術により、初めて人間というものに出会い、その美青年ファーディナンドに恋をしました。二人は結婚の契りを交し、その上、妖精の祝婚劇まで見せてもらいます。プロスペローは自分達が受けた仕打ちに対し復讐を企てたのですが、その復讐は「眼には眼を」の復讐より高い次元のものでした。恨みではなく、赦しを、不和ではなく、和解をプロスペローは敵の前に差し出すのです。

そうやって、一同はミランダとファーディナンドがチェスをして遊ぶ岩屋に招かれます。生まれて初めて見る人間の集団を眼の前にして、ミランダが思わずもらす言葉がこの台詞です。

Mirandaとは「不思議、驚き」(wonder)の意ですから、この場面のために彼女の名が付けられたと言えます。奇跡(miracle)、蜃気楼(mirage)、鏡(mirror)、更には称える(admire)もみな同じ語源から来ています。

これだけでしたら、シェイクスピアも単なるメロドラマ作家になってしまう所ですが、『あらし』はもう少し複雑です。ミランダが「素晴らしい新世界」と感嘆の叫びをあげたその世界に、いまだ王位纂奪の機を伺っている人間も混じっているのです。“'Tis new to thee."とだけ言ったプロスペローにこそ、人間の愚かさを爽やかに超越した不思議(wonder)を感じずにはいられません。


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