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旅/陣痛(travel/travail



 現代、まったく別物として使われているこの二つの単語は、シェイクスピアの時代には区別されることなく使われていました。基本の意味は「苦しみ」です。それもそのはず、この単語のみなものとをたどると、ローマ帝国時代に使われた、三本の杭でできた拷問器具‘tripalium'に行き着くからです。
 私達は旅行するのを楽しみにしていますが、当時旅することは大変苦痛を伴うものでした。おそらく子供を産むのと同じくらい苦しいものだったのでしょう。そこで「苦しみ」の代表として「旅」と「出産の苦しみ」が選び出され、さらには意味の区別を綴り字によってつけるようになり、現代に至ったというわけです。
 シェイクスピアはこの意味の重複を利用して、ことば遊びを楽しんでいます。もっとも初期の作品『間違いの喜劇』の中で、家族と離れ離れになっていた母エミリアが双子の息子と再会を果たした時、

‘Thirty-three years have I but gone in travail of you....'
(三十三年間苦しい旅をつづけてきたのも、おまえたち二人を産み落とす陣痛だったのですね)

という感動的な台詞を語ることができたのは、「旅」と「陣痛」が区別されていなかったおかげです。
 


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