Corin:And how like you this shepherd's life?
Touchstone: Truly, shepherd, in respect of itself, it is a good life; but in respect that it is a shepherd's life, it is naught. In respect that it is solitary, I like it very well; but in respect that it is private, it is a very vile life. Now in respect it is in the fields, it pleaseth me well; but in respect it is not in the court, it is tedious.
コリン:羊飼いの生活は気に入ったかね?
タッチストンーン:いやそれ、羊飼い殿、それ自体としては実によい生活なのだが、羊飼いの生活だという点が玉に傷。ひと気がないという点ではおおいに気に入っているんだが、人里離れているという点ですべてぶちこわしだ。田舎にあるのがうれしい所だが、宮廷じゃない点で退屈極まる。
(『お気に召すまま』三幕二場)
西洋文学の主要なジャンルに「牧歌」(あるいは「田園詩」)という区分があります。牧歌とは羊飼いの歌の意味ですが、羊飼いが歌った歌ではなく、羊飼いを歌った歌です。主語と目的語の差は重要です。もっと正確にいうと、都市に生活する詩人が自分の(あるいは先祖の)田園での生活を懐かしんで歌った歌を牧歌といいます。ですから、今ここにないものへのあこがれやノスタルジーが歌の中心にあります。ベートーヴェンの田園交響曲も長い牧歌の伝統に加えられた一変奏と考えられます。
『お気に召すまま』は、牧歌のジャンルに分類されうる主題をたくさん含んだ劇ですが、その道具立てとは裏腹に牧歌のパロディとしての要素が勝った作品といえます。その一例が上の引用です。宮廷のお抱え道化タッチストーンは森に入ってもやはり宮廷人でありつづけ、牧歌の定義とはさかさまに、羊飼いと共にあって宮廷(都市)での生活をなつかしんでいます。しかし、羊飼いコリン(彼は牧歌の常連)も負けてはいません。
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