終りよければすべてよし

シェイクスピア台詞集〜4



Helena Our remedies oft in ourselves do lie,
Which we ascribe to heaven. The fated sky
Gives us free scope, only doth backward pull
Our slow designs when we ourselves are dull.
天の力でなくてはと思うことを、人がやってのけることもある。運命が司る空の下にもずいぶん自由な余地があるはず。でも、私たち人間が到らないせいで、できることも駄目にしてしまうのだ。
(『終りよければすべてよし』一幕一場より)

 身分違いの青年貴族バートラムを恋するヘレナは、誰にも治せなかった王の病いを、父親から受け継いだ医術の知識を用いて治すことに成功し、その褒美としてバートラムとの結婚を王に願い出ます。当時、医者は身分の低い扱いを受けていたのです。バートラムは面白くありません。しかし、王の命令ですから逆らえません。一旦は結婚しますが、すぐに行方をくらまし、ヘレナに「私がいま指にはめている指輪を手に入れ、その上さらに、私がお前の体に宿した子供を私の前に連れてくれば、私を夫と呼ぶことを許そう」と書き送ります。もちろん、絶縁状です。ヘレナは、しかし、それを絶縁状とは思いません。「常識から見ている限り、不可能なことはいつまでも不可能なまま、常識に囚われていては、できることも駄目にしてしまう」とヘレナは考えます。絶縁状をヘレナは夢を実現するための条件と受け取るのです。やると決めたからには、やれるだけやる。それがヘレナの生き方でした。

 そして、「天の力でなくては」とても満たせそうにないこの条件を見事に満たすのです。さて、どうやって満たしたのでしょう?

 この作品のストーリーは、王の病いの治療と、かよわい娘による無理難題の解決、という民話に取材しています。こうした楽天的な舞台設定にも拘らず、皮肉な雰囲気が劇全体を包んでいるため、多くの研究者はこの作品を「問題劇」という区分に分類しています。

 シェイクスピアは三人のヘレナ(ヘレン)を創造しましたが、なぜか三人とも愛の不毛に悩んでいます。『トロイラスとクレシダ』のヘレンは当然のことながら、他の二人のヘレナにも、トロイ戦争で死んだ兵士達の呪いが降り掛かり、愛の不幸を呼ぶのでしょうか。


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