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I have a beard coming.(ひげが生えかかってるんだ)



 髭には古来、神性、男性性などの象徴的意味が与えられてきました。そのため捕虜、囚人を辱めるために髭をそった時代もあったほどです。にも拘らず髭を剃る習慣が歴史の中で比較的一般化しているのは何故でしょう。これは一つの謎です。
 しかし、シェイクスピアの時代は当時の肖像画を見ても分かるように、髭が流行した時代でした。髭を生やした人には税金がかけられたこともあり、髭は一人前の男性であることの証になりました。
 そうした状況を考えると、『夏の夜の夢』でフルートが余興の芝居で女役をやれと言われて「女役はいやだよ、髭が生えかかってるんだ」(I have a beard coming.)と言った理由が分かるような気がします。『空騒ぎ』にも「髭が生えればもう若者とは言えない、けれど髭のない男では一人前とは言えない」という台詞があります。
 髭に関する言葉をもう一つ。

Com'st thou to beard me in Denmark?(デンマークでこの俺と髭比べにやって来たのか?)

 これはハムレットが、以前は髭が生えていなかった旅芸人に語りかける台詞ですが、‘beard'という動詞には「対抗する、面と向う」いう意味があるので、一人前になった役者に「髭」に引掛けてしゃれた挨拶をしたわけです。


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