マクベス

シェイクスピア台詞集〜5


MACBETH Two truths are told,
As happy prologues to the swelling act
Of the imperial theme....
This supernatural soliciting
Cannot be ill; cannot be good.
二つは当たった。王位を主題の、壮大な芝居の前口上としては幸先がよい。得体の知れぬ誘惑だが、悪かろう筈がない。良かろう筈もない。
         (『マクベス』一幕三場より)

 戦からの帰路、三人の無気味な魔女からそれぞれ、グラミスの領主、コーダーの領主、そして、王、と呼びかけられたマクベスは、途方もない言葉を最初信じませんが、その直後、武勲を称えてコーダーの領主に格上げされたという報告を受け、ぎくりとします。グラミス、コーダーと言い当てられたからです。そこで上の台詞になるわけです。そして、一、二と当ったからは第三の王位も当たる筈、と野心が頭を擡げ、マクベスの悲劇が始まるわけです。

 ここで注目したいのは、自分の野心を語る際に劇的比喩を使っている点です。‘prologues'‘act'‘theme'どれもみな演劇に関係したことばです。これを皮切にマクベスはいくつもの劇的比喩を用います。こうした高揚した気分を伝えるのに何故、劇的比喩を用いたのでしょうか。

 私たちの人生は、始まりと終りが曖昧なまま絶えず「今」を引き延ばし、繰り返し、生きて行くという特徴を持っていますが、劇には必ず始めがあり、終りがあります。当り前すぎることですが、これがとても重要な特徴なのです。というのも始めと終りがはっきりしているからこそ劇は繰り返し上演できるのです。もし永遠に続く劇だったら上演は不可能です。と同時に、だからこそ劇では時間が無限ではないこと、掛け替えのないことを痛切に感じさせられるのです。限られた時間を輝かしく生きている実感。それが劇的比喩の核心ではないでしょうか。

 結局マクベスの野望は打ち砕かれます。もっとも大きな衝撃は頼みの綱であったマクベス夫人の死の知らせでした。その時マクベスは劇的比喩を用いておのれの絶望を語ります。

‘Life's but a walking shadow, a poor player'−−
人の一生は歩き回る影法師、哀れな役者にすぎない。


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