シェイクスピア台詞集〜6

『アントニーとクレオパトラ』


Cleopatra: My salad days,
When I was green in judgement, cold in blood.
それは私がサラダように青かった時のこと、善し悪しの判断もできず、愛の熱も知らず...
(「アントニーとクレオパトラ』一幕五場)

クレオパトラもハムレットに劣らず名言を数多く口にしています。上の台詞は以前シーザーを慕っていた時のことをからかわれて言ったことばです。この`salad days'は、野菜のように青<て未熟な時、という意味の比喩ですが、言外に、あの頃は、食べ頃に焼けたメイン・ディッシュの肉の味も知らなかった。というセクシャルな意味も隠れています。野菜の青さ、冷たさ、淡泊に、肉の赤み、熱さ、濃密な味わいが対比されているのです。なかなかしゃれた台詞ではありませんか。この言い回しはひとびとのこころに刻まれ、今ではごく普通の辞書に載るほど一般的な表現になりました。お持ちの英和辞典を引いてみてください。また、このことばをそのままタイトルにしたミュージカルも1954年に上演さ.れました。

Cleopatra:
Where think'st thou he is now? Stands he, or sits he?
Or does he walk? Or is he on his horse?
O happy horse, to bear the weight of Antony!
Do bravely, horse, for wot'st thou whom thou mov'st?
The demi-Atlas of this earth, the arm
And burgonet of men.
あの方は今どこにいらっしゃるのかしら。立っていらっしゃるの、坐っていらっしゃるの、それとも、歩いていらっしゃるの?いや、馬に乗っていらっしゃるめかも知れない。幸せな馬、アントニー様に乗ってもらえるなんて。立派にお働き。お乗せしている方が誰だかおまえ、知っているの?この地球の半分を背負う英雄、人間の剣であり、兜である方。
(『アントニーとクレオパトラ』幕五場)

クレオパトラの愛は度外れた灼熱と、抗いがたい轟惑に満ちていて、近づくものを虜にしてしまいます。愛を伝える彼女の台詞には、若いジュリエットにはまだ到底持つことの不可能な、妖しい魅力が息づいています。それにしても、これらの台詞が声変わり前の男の子によって語られていたとは!


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