シェイクスピア台詞集〜14


尺には尺を


Duke:    Hence shall we see,
   If power change purpose, what our seemers be.
公爵:そこで、もし権力が人間を変えるとすれば、この仮面をかぶった人間がどう変るか見届けたいものです。(『尺には尺を』一幕三場より)

ウィーン公爵は留守中の代理を謹厳実直なアンジェロに委ね、旅に出ます。しかし、本当の目的はこの男を試すことにありました。なにしろアンジェロは「誘惑されることと、誘惑に堕ちることは別ものです」('Tis one thing to be tempted, Escalus, /Another thing to fall.)と涼しい顔をして言う人間なのです。その潔癖さが本物かどうか確かめるため、旅に出たふりをしていたのです。

アンジェロは代理を任されるとすぐに淫らな行いを禁じる法令を復活させます。その最初の犠牲者が若気の至りから婚約者を結婚前に身籠もらせてしまったクローディオです。アンジェロは法令に従って死刑を宣告しました。私たちから見ると馬鹿馬鹿しい法令ですがアンジェロは当然の措置と考えます。勿論人々は黙ってはいません。クローディオの妹が命乞いにやって来ます。ここからがこの劇の見所になるわけですが、こともあろうにアンジェロは兄の命乞いに来た見習い修道女のイザベラに一目惚れしてしまうのです。それまで恋心など抱いたことのないアンジェロの煩悶は一通りではありません。

Angelo: Is this her fault or mine?
  The tempter, or the tempted, who sins most?...
  O, cunning enemy that, to catch a saint,
  With saints dost bait thy hook.
アンジェロ:あの女が悪いのか、私が悪いのか。どっちが罪深いのだ、誘惑した者か、誘惑された者か。(中略)抜目のない悪魔め、聖人を釣るために聖人を餌にするとは。(二幕二場より)

アンジェロは破廉恥にも、兄の命を救ってほしければ操を自分に差し出せとイザベラに迫ります。しかも当人の名前が「天使」なのですから、シェイクスピアもずいぶん罪作りな設定をしたものです。二進も三進も行かないイザベラ。さあ、どうなるのでしょう。つづきは原作を読んでみてください。

この作品はこうした苦い主題のため「暗い喜劇」とか「問題劇」とか呼ばれていま


引用の際はURLの表示をお願いします

世界劇場だより目次へ
inserted by FC2 system