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演戯の目的は自然に向って鏡を立て掛けることだ
the purpose of playing is to hold the mirror up to nature



 これはハムレットが語るあまりにも有名な演戯論ですが、その意味はあまりはっきりしているとは言えません。というのもここで言う「自然」の意味がはっきりしないからです。ハムレットが言おうとしていることを要約すると、役者はやりすぎ、やらなすぎ、共に避けるべきだ、というのも演戯とは自然に向って鏡を立て掛けることだからだ、こんなところでしょうか。「鏡」は「鑑」にも通じ、模範を指します。「自然」はこの台詞のすぐ前にも「自然のつつしみを踏み越えてはならない」というくだりで出てきます。一見、このことばの意味は明白に見えます。つまり、舞台は人生の模範たるべし、また、人生は舞台の模範たるべし。

 しかし、まだはっきりとはしていません。何故なら、別なところで、シェイクスピアは「この世は舞台、人はみな役者」と言っているからです。勿論それがシェイクスピアの人生観そのものである保証はありませんが、彼が活躍した地球座の正面玄関に掲げられていたと言われる銘 ‘Totus mundus agit histrionem.'(全世界の人々は役者として動き回っている)にみられる演劇人としての信条はまさにシェイクスピアのものではないでしょうか。すると、自然(=ありのままのこの世の姿)とは、舞台としてのこの世の姿を指すことになり、演戯の目的である「自然に向って鏡を立て掛けること」とは、謂わば、鏡と鏡を合せたような軽いめまいを催させる堂々巡りを意味します。

 不毛な観念の遊び。そうかも知れません。でも、私には実にわくわくさせてくれる、不思議な遊びに思われます。

ちなみに原文は次の通りです。

        the purpose of playing,
whose end, both at the first and now, was and is to
hold as 'twere the mirror up to nature 
(演戯の目的は、最初からそうだったし、今でもその通りだが、言ってみれば、自然に向って鏡を立て掛けることだ)

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