『ハムレット』

シェイクスピア台詞集〜18


Ophelia:
How should I your true love know
From another one?
By his cockle hat and staff
And his sandal shoon.
あなたのほんとの恋人か
 どうかをどうして見分けるの?
貝殻帽に杖と靴
 それではっきりわかります
         (『ハムレット』四幕五場より)
        
 『ハムレット』の台詞は以前にも紹介しましたが、今回は特別に、11月の公演「鯛の声を聴いたか?」に出て来るオフィーリアの歌を取り上げました。

 これは、気が触れたオフィーリアが歌う歌の一節です。宮廷の大広間に「デンマークのお妃様はどこに?」と言いながら入って来たかと思うと、すぐにこの歌を歌い始めます。当時歌われたと思われる物悲しいメロディも譜面で残されています。オフィーリアの狂気の直接の原因は父ポローニアスの死でしょうが、歌の内容から察すれば、彼女のこころの底に澱のように沈んだハムレットとの恋が見て取れます。貝殻帽は巡礼の出で立ちのひとつですが、当時の貴族はこういう格好で仮面舞踏会に現れたようです。『ロミオとジュリエット』でも同様な趣向が使われています。
        
 歌い終わると、彼女は突然謎めいたことばを口にします。

They say the owl was a baker's daughter.
フクロウはもと、パン屋の娘だったのですってね。
 このことばの裏にはキリスト民話が隠れています。イエスを哀れんで、パン屋が施しのパンを焼こうとすると、娘が「それは大き過ぎる、もっと小さいのでいい」と言って、パン生地をちぎって小さくしました。しかし、焼き上がってきたパンは驚くほど大きなものでした。それを見ると、パン屋の娘は「ホーホーホー」と叫んでフクロウになってしまったそうです。

 どうしてオフィーリアは、こんな民話を口にしたのでしょうか。いろいろな説がまことしやかに語られていますが、謎は謎として見た方がよくはないでしょうか?それだけ淵は深くなります。
        
 歌を四曲披露してオフィーリアは走り去り、川に身を投げてしまいます。最後のことばは簡潔に「さよなら(God be wi' you!)」でした。


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