シェイクスピアの名台詞〜Memorable Speeches from Shakespeare〜

ユダヤ人には目がないのか?ユダヤ人には手がないのか?
Hath not a Jew eyes? Hath not a Jew hands?
作品解説
『ヴェニスの商人』3幕2場


シャイロックの台詞で、もっとも観客のこころを動かす一節です。(実はこの台詞は長い台詞の途中です。すぐ前の台詞はここにあります。)上の台詞をもうすこしくわしく紹介すると、こうなります。

SHYLOCK. Hath not a Jew eyes? Hath not a Jew hands, organs, dimensions, senses, affections, passions, fed with the same food, hurt with the same weapons, subject to the same diseases, healed by the same means, warmed and cooled by the same winter and summer, as a Christian is?
(ユダヤ人には目がないのか?ユダヤ人には手がないのか?鼻や耳や口はないのか?いいや、五体もあれば、感覚もある、好き嫌いもあれば、情欲もある。キリスト教徒と同じものを食い、同じ刃物で傷つき、同じ病気にかかり、同じ薬で治る。ユダヤ人でも冬は寒いし、夏は暑い。)

どんなに憎々しげなシャイロックでもこのくだりではちょっと可哀想に思ってしまいます。台詞の力がいかに大きいかを思い知らされる一節です。シェイクスピアにしてみればシャイロックの復讐心を生々しく伝えようとしたのでしょうが、(たぶん筆が滑り)あまりにその人間的側面を描きすぎたため、シャイロックが意図に反して憎むべき悪者から共感される被差別者になってしまったといえるでしょう。この台詞で、劇場はしんと静まり返ります。


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